安静時の心拍数はなぜ変わる?
普段の脈拍、日々の変化、受診の目安を知るために。
この記事の要点
- 成人の安静時心拍数の一般的な目安は1分間に60〜100回です。日本の人間ドックの45〜85回は、横になって測る場合の健診用の基準範囲で、目的と測定条件が異なります。[1][2][3]
- 緊張、発熱、運動、睡眠などに合わせて心拍数が変わるのは自然なことです。変化の理由と続き方を見ましょう。[1][6]
- 同じ条件で測った「いつもの自分」との比較が役立ちます。ただし、個人の基準値だけでは病気の診断も除外もできません。[4][5]
- 安静時に100回を超える、50回を下回る状態が続く場合や、脈が不規則な場合は医療機関に相談しましょう。胸痛、強い息苦しさ、失神などがあれば、数字を待たず直ちに119番に連絡してください。[1][5]
目次
一般的な教育情報であり、医師の診断や治療に代わるものではありません。個人の基準値やオンライン測定・アプリの表示だけで病気の診断や除外はできません。オンライン測定は脈拍数の推定であり、心電図ではありません。気になる変化は医療機関に相談してください。
血圧計やスマートウォッチに表示される「心拍数」。朝は62、夕方は78。風邪の日はもっと高い。この数字は、いったい何を語っているのでしょうか。心臓のしくみから順に、心拍数が変わる理由をたどっていきます。
数字だけで健康状態を決めることはできません。この記事では、架空の人物ミサキさんの1年を通じて、「いつもの脈」と変化の理由、リズム、症状を一緒に見る方法を紹介します。[番号]は参考文献に対応しています。
プロローグ 同じ心臓なのに、数字が違う
朝の62回も、階段を駆け上がったあとの110回超も、そのときの体の必要に応じた心拍数です。心臓のテンポは一定ではありません。[6]
しくみを図で理解
体の要求が変わると、心臓の応答も変わる
- 安静
体を動かす要求が少ない安静時のペース
- 活動
筋肉への酸素供給が必要拍出量を増やす。脈も通常速くなる
- 回復
活動後、要求が落ち着く脈は安静時の方向へ戻る
変化の方向を示す模式図です。速さや回復時間には個人差があり、回復したことだけで病気は除外できません。 [1]
朝6時30分。ミサキさんは36歳の会社員です。目覚ましを止めたあと、布団の中でしばらくじっとしていました。その朝に確認した脈拍数は62回。
それから1時間後。電車に間に合わせようと駅の階段を駆け上がると、胸がドクドクと鳴っています。その後に確認した値は、110回を超えていました。同じ人の、同じ心臓なのに、数字が大きく変わっています。
「わたしの本当の心拍数って、どっちなんだろう?」答えは「どちらも本当」です。心臓がどれだけ速く、どれだけ強く打つかは、神経やホルモンの合図でそのつど調整されています。体が多くの血液を必要とすれば速く、休んでいればゆっくり。これは病気がなくても起こります。[6]
では、そのテンポはだれが、どうやって決めているのでしょうか。どこまでが自然な変化で、どんな変化を相談したほうがよいのでしょうか。ミサキさんの1年を追いかけながら、心臓の中をのぞいてみましょう。
第1章 心臓は「2つのポンプ」でできている
心臓の右側は血液を肺へ、左側は肺から戻った血液を全身へ送ります。4つの部屋が協調し、弁が逆流を防いでいます。[6][7]
循環を動きで理解する
2つのポンプ。途切れない循環。
組織で酸素を渡した血液が、右心房へ戻ります。
心臓の中は4つの部屋に分かれています。上側の2つが心房、下側の2つが心室です。心房は流れ込んできた血液を受け取って心室へ渡し、心室は血液を心臓の外へ送り出します。[7]
4つの部屋は、ばらばらに動いているわけではありません。「受け取り係」と「送り出し係」がペアになった小さなポンプが、左右に2台並んでいると考えるとわかりやすいでしょう。右心房と右心室は全身から戻った血液を肺へ送り、肺で酸素を取り込んで二酸化炭素を手放します。左心房と左心室は、その血液を受け取って全身へ送り出し、組織に酸素と栄養を届けます。[7]
左右のポンプは協調して動きます。まず心房が収縮して心室へ血液を押し込み、そのあと心室が収縮して肺と全身へ血液を送り出します。電気信号が心房から心室へ伝わる途中には短い遅れがあり、心室に血液が入る時間を確保しています。[6][7]
文章の中を、動きで見る
弁が切り替わるから、血液は逆流しない
入口と出口の弁が同時に開かないことに注目。図は心室の充満と駆出を表す機能モデルです。
入口の弁が開き、出口は閉じます。
それぞれの心室の入口と出口には弁があり、血液を一方向に流します。ポンプの逆止めバルブのようなしくみです。なお、胸で聞こえる主な2つの心音は弁が閉じることに伴う音で、心房と心室の収縮音をそのまま聞いているわけではありません。[7]
心臓が1分間に70回打つとすると、1時間で4,200回、1日でおよそ10万回。眠っているあいだも、この収縮と拡張のサイクルは続いています。
第2章 リズムを刻むのは誰? 心臓のペースメーカー
通常の心拍の出発点は右心房の洞結節です。迷走神経の「ブレーキ」と交感神経の「アクセル」、ホルモンの働きがそのペースを調整します。[6][8]
しくみを図で理解
信号の順序と、ペースの調整は別のしくみ
- 洞結節
電気信号が始まる
- 心房
収縮して血液を心室へ
- 房室結節
信号を短く遅らせて伝える
- 心室
収縮して肺と全身へ送り出す
迷走神経洞結節のペースを落とす方向に働く
交感神経洞結節のペースを上げる方向に働く
上は信号が伝わる順序、下は速さの調整。動きは伝達順を示し、実際の時間間隔ではありません。 [6] [8]
右心房の上のほうに、洞結節という小さな細胞の集まりがあります。ここが電気信号を出す天然のペースメーカーです。正常な洞調律では、この信号が心房から心室へ伝わって拍動を起こします。ただし、伝導の異常や別の場所からの信号があると、洞結節の信号の数と実際の拍動が一致しないことがあります。[2][6]
文章の中を、動きで見る
電気信号が、順番に収縮を起こす
- 1洞結節
- 2心房
- 3房室結節
- 4心室
房室結節のところで一度待ってから、心室へ進みます。信号の形や時間は実測値ではありません。
正常な拍動では、ここから電気信号が始まります。
自律神経の影響を除いた洞結節の自発的なペースは、およそ1分間に100〜110回と説明されています。実際の安静時心拍数がこれより低いことが多いのは、脳から心臓へつながる迷走神経が、ふだんから軽くブレーキをかけているためです。[8]
体が動き始めると、まずそのブレーキがゆるみ、さらに交感神経というアクセルが働きます。ホルモンも速さと収縮の強さを調整します。ミサキさんが駅の階段を駆け上がったときにも、この調整が起きていたのです。[6][8]
このアクセルとブレーキは、この先にも登場します。緊張、発熱、トレーニングは、いずれも心臓のテンポに関わるからです。
「心拍数」と「脈拍」は同じ?
心拍数は心臓が一定時間に拍動する回数、脈拍はその拍動が動脈を伝わって手首などで触れる回数です。通常は同じですが、不整脈では一部の拍動が十分な脈として届かず、脈拍のほうが少なくなることがあります。[5]
文章の中を、動きで見る
脈は、動脈を伝わる圧力の波
動脈壁のふくらみが右へ伝わります。点は波と血液の移動を区別するための固定目印で、血液が静止しているという意味ではありません。
波が動脈へ伝わり始めます。
息を吸うと脈が速くなるのは正常なことも
安静時でも、息を吸うときに少し速く、吐くときに少し遅くなることがあります。これは呼吸性洞性不整脈と呼ばれる正常な変化で、健康な子どもや若い人によくみられます。名前に「不整脈」がついていても、通常は病気ではありません。ただし、新しい脈の乱れを、感覚や脈拍数だけでこれだと決めつけることはできません。[9]
第3章 安静時心拍数の正常値は?
成人の一般的な目安は1分間に60〜100回です。日本の人間ドックの45〜85回は、仰向けで測る健診の基準範囲で、同じ意味の「正常値」ではありません。[1][2][3]
しくみを図で理解
比較の前に、測る条件をそろえる
落ち着いた安静時に
姿勢の違いを減らす
機器・方法をそろえる
睡眠・体調・薬・症状も一緒に記録する
変化 + 状況 + 症状で考える。普段どおりの数値でも、病気は否定できない。
安静時心拍数とは、座ったり横になったりして落ち着いているときの心拍数です。成人では60〜100回が一般的な目安ですが、若い人や運動習慣のある人では、60回未満でも正常なことがあります。症状、薬、体力、測定条件を含めて判断します。[1][2]
日本人間ドック・予防医療学会は、横になって測った心拍数45〜85回を基準範囲としています。上限には、心拍数と将来の心血管リスクの関連も考慮されています。日本心臓財団の資料には、健診受診者の平均は65±10回と紹介されています。これらは健診集団や測定条件に関する情報で、一般成人の目安を置き換えるものでも、範囲外なら直ちに病気とするものでもありません。[3][5]
「普通」は人の数だけある
92,457人のウェアラブル端末のデータを分析した研究では、全体の平均は約65回でしたが、個人ごとの平均は約40〜109回と幅広く分かれていました。研究には健康状態を確認する臨床データがなく、この観察された幅は、すべての値が健康だと保証する範囲ではありません。端末が算出する日ごとの安静時心拍数は、一度の座位での検脈とも同じ測定ではありません。[4]
一方で、同じ人の中では比較的安定していました。週内の変動の指標は中央値で約3回、約8割の人は最も変動した週でも差が10回未満でした。研究での変動幅を、個人の受診判断の境界にすることはできません。[4]
同じ70回でも、ある人にはいつもどおり、別の人にはいつもより高い数字かもしれません。体温に平熱があるように、心拍数にも「いつもの脈」があります。ただし、その基準だけで病気を診断したり、いつもどおりだから病気ではないと判断したりはできません。
年齢や性別でも少し違う
同じ研究では、平均心拍数は50歳ごろまで上がり、その後は下がる傾向があり、どの年代でも女性のほうが男性より高めでした。睡眠時間が7〜7.5時間の人で低く、体格ではやせすぎや肥満で高めになる関連もみられました。ただし、年齢、性別、体格、睡眠を合わせても個人差の約1割しか説明できませんでした。これは観察研究で、特定の睡眠時間を守れば必ず脈が下がるという意味ではありません。[4]
オンライン測定を同じ条件で行う準備
安静時の値は、毎回できるだけ同じ時刻、姿勢、条件にすると比較しやすくなります。HeartScanはカメラではなく、スマートフォンの加速度センサーで胸の微細な振動を捉えるSCGを利用します。楽な姿勢で横になり、開始後に胸にスマートフォンを置くなど、ツールの画面の案内に従ってください。心拍数の推定値は、心電図によるリズムの評価とは異なります。
ミサキさんが2週間、朝の洗面後にいすに座って確認した値は60〜64回。およそ62回が彼女の「いつもの脈」でした。布団の中の値と座った値も条件は異なるため、その後は座って測る方法でそろえます。
第4章 安静にしているのに心拍数が高いのはなぜ?
座っていても、緊張、痛み、暑さ、薬などで心拍数は上がります。理由がなく高い状態が続くなら、病気や薬の影響がないか相談が必要です。[1][10]
しくみを図で理解
きっかけから脈の変化までをたどる
きっかけによって経路や反応の強さは異なる
脈が速くなることがある
ある日の午後、ミサキさんは役員へのプレゼンを待って会議室に座っていました。体は動かしていないのに脈は92回。いつもの62回より30回多い数字です。
体が動かなくても、緊張や不安、喜び、悲しみ、痛みでアクセルは働きます。ミサキさんの場合、プレゼンが終わって1時間ほどすると、いつもの数字に戻りました。ただし、脈が速いというだけで原因を緊張と断定することはできません。[1]
一時的に心拍数を上げるもの
睡眠や季節も関係します。約9万人の研究では、睡眠7〜7.5時間の人で平均値が低く、集団では1月初めに高く、7月末に低い傾向がありました。季節差は約2回でした。これも集団での関連で、すべての人に同じ変化が起きるわけではありません。[4]
逆に、β遮断薬や一部のカルシウム拮抗薬など、心拍数を下げる薬もあります。服薬は「いつもの脈」の解釈に重要です。自己判断で薬を中止したり、量を変えたりしないでください。[1]
高い状態が続くときに考えられるもの
はっきりした理由がないのに安静時心拍数が高い場合は、貧血、呼吸器の病気、甲状腺機能亢進症、心不全などが関係することがあります。数字だけでは見分けられません。[10]
見るポイントは、数字だけでなく理由と続き方です。原因がなくなれば戻る一時的な変化と、理由のない変化が続く場合とでは、対応が異なります。突然始まって突然止まる変化や、ばらばらのリズムについては第7章で説明します。
第5章 風邪をひくと脈が速くなるのはなぜ?
発熱や感染症のときには心拍数が上がることがあります。ただし、体温から個人の心拍数を正確に計算したり、脈だけで感染症を診断したりはできません。[1][12][14]
しくみを図で理解
発熱時に、脈が速くなることがある理由
実際の研究での観察:若い男性27人(1986年)
- 回復後の平均
- 66.5 bpm
- 発熱中の平均
- 84 bpm
発熱中の平均体温は38.4℃。小規模で対象が限られた研究の集団平均であり、体温から自分の脈を計算する式や安全の基準ではありません。 出典:Karjalainen & Viitasalo [12]
12月の朝、のどの痛みで目覚めたミサキさんの体温は37.8℃。確認した脈拍数は73回でした。安静にしているのに、いつもより11回多い数字です。これは物語上の例であり、体温と脈が必ずこの組み合わせになるわけではありません。
熱と脈には関係があるが、計算式ではない
フィンランドで、発熱した若い男性27人の心電図を、発熱中と回復後に比べた小規模な研究があります。発熱中の平均体温は38.4℃、心拍数は平均84回、回復後は66.5回でした。研究内では体温1℃の上昇あたり平均約8.5回の増加が報告され、睡眠中も高い傾向がみられました。[12]
ただし、対象は少人数の若い男性です。この平均値を使って「自分の熱なら何回になるはず」と予測することはできません。発熱時の脈には薬、体調、もともとの心拍数なども関わります。ミサキさんの73回を、この研究の計算どおりだから安全と判断してはいけません。[1][12]
心拍数は、病気の「小さな合図」になる
米国の4万7,000人以上のウェアラブル端末の安静時心拍数と睡眠データは、州ごとのインフルエンザ様疾患の流行把握の改善に役立ちました。これは集団の流行監視の研究で、個人のインフルエンザ診断ではありません。[13]
新型コロナウイルス感染症にかかった32人を調べた研究では、26人で安静時心拍数の上昇がみられ、一部では症状が出る最大10日前から変化がとらえられました。ただし、小規模な研究であり、スマートウォッチだけで感染を診断したり、変化がないから感染していないと判断したりはできません。いつもの脈を知ると体の変化に気づきやすくなる、という意味で受け止めましょう。[14]
治ったあとも、脈はすぐには戻らないことがある
新型コロナウイルス感染症の234人のデータでは、安静時心拍数がもとの水準に戻るまで、症状が出てから平均79日かかりました。歩数や睡眠時間の回復より遅く、約14%では133日を過ぎてももとの値より5回以上高い状態でした。これはその研究集団の結果で、個人の回復期間の目安や、安全に待てる期間を示すものではありません。[15]
熱が下がっても体調の回復が続くことはあります。脈の変化や症状が続く、または悪化する場合は、単に「回復途中」と決めつけず相談しましょう。
熱がないのに心拍数が高いとき
熱がない場合でも、症状が出る前や回復中の変化、一部のかぜ薬の刺激作用、体調不良に伴う睡眠の変化などが関係する可能性があります。しかし、脈だけで原因はわかりません。[4][11][14][15]
安静時に100回を超える状態が続くなら相談してください。胸痛、強い息苦しさ、失神、強いめまいがある場合は、風邪のせいと考えず直ちに119番に連絡してください。脈の回数にかかわらず救急対応が必要です。[1][5]
ミサキさんの熱は3日で下がりましたが、朝の脈はしばらく66〜68回でした。「まだ本調子じゃないんだな」と、その週の予定を少しゆるめ、早めに寝ることにしました。これは架空の経過で、同じ数字なら受診不要という意味ではありません。
第6章 運動を続けると安静時の心拍数が下がる理由
継続的な運動で安静時心拍数が下がることがありますが、変化には個人差があります。低いほど健康とは限らず、症状を伴う低下は確認が必要です。[1][16]
しくみを図で理解
送り出す血液量は、心拍数だけでは決まらない
持久系トレーニングへの適応で1回拍出量が増えると、安静時に同じ血液量をより少ない拍動で送れることがある。
しくみを簡略化した関係式です。運動での変化には個人差があり、低い心拍数だけで体力や健康は判定できません。 [7] [16]
年が明けて、ミサキさんは週3回、近所の公園でジョギングを始めました。最初は15分で息が上がりましたが、春には30分走れるようになりました。ある朝、いつもの脈が62回ではなく58回前後になっていることに気づきます。
運動と安静時心拍数の関係を調べた、計12,952人のメタ分析があります。要旨では191研究とされていますが、本文では重複10報を除いた181報と説明されています。次の表は各群の運動前後の変化率で、対照群との差を調整した治療効果ではありません。運動の種類の優劣を直接比較した結果でも、個人の予測値でもありません。筋力トレーニングの低下は、全体としては統計的に有意ではありませんでした。[16]
| 運動の種類 | 運動したグループの変化 | 運動しなかったグループの変化 |
|---|---|---|
| ヨガ | −7.2% | −2.0% |
| 持久系(ジョギング、自転車など) | −6.0% | −0.1% |
| 筋力トレーニング | −2.5% | +0.1% |
どのくらい下がるの?
分析では、もとの心拍数が高い人ほど低下が大きく、年齢が上がるほど効果は小さめでした。ミサキさんの62回から58回という変化は、持久系運動群の平均変化率と近い大きさですが、平均値を使って個人の効果を約束することはできません。下がらないから運動が無意味ということでもありません。[16]
なぜ下がるの?
運動によって心臓が効率よく血液を送り出せるようになると、安静時には少ない拍動で必要な血流をまかなえることがあります。自律神経の調整も関係します。[1][8]
文章の中を、動きで見る
同じ量を送るにも、1拍の量で回数が変わる
同じ比較時間に、同じ総量を届けるモデル
最後は同じ高さ、同じ総量一回拍出量と心拍数の組み合わせで、一定時間に送る血液量が決まります。
包み・容器・動く速さは説明用で、血液が実際に包みとして流れるわけではありません。実測値や目標値ではなく、実際の一回拍出量・心拍数を示していません。心拍数は低いほどよいとは限らず、体の要求や症状と合わせて考えます。
小さい1回量と大きい1回量を比べます。
洞結節そのものの変化を示した動物研究もあります。鍛えたマウスでは、薬で自律神経の作用を遮断しても心拍数が低く、ペースメーカーの働きに関わるHCN4というイオンチャネルが減っていました。ただし、この実験だけで人のトレーニング効果をすべて説明することはできません。[17]
運動後に心拍数が下がっていく速さも、臨床では参考にされます。ただし、心拍回復の評価は運動の強さ、終了後に歩くか休むか、姿勢、薬、測定時点などで異なります。「1分で何回下がれば正常」という万人共通の基準として自己判定しないでください。運動しても脈があまり上がらない場合や、運動時に症状がある場合は相談しましょう。[10]
コラム 一生の心拍数は20億回?
心臓に決まった「残り回数」があるという根拠はありません。心拍数と寿命の関連は、心拍を遅くすれば長生きできるという証明ではありません。[21][23]
しくみを図で理解
心拍数は状態の指標。残りの寿命のカウンターではない
状態を知る指標
今の体を理解する手がかり安静・活動・体調などの影響を受ける
固定の予算ではない
使い切る「生涯の拍数」脈から残りの寿命を逆算することはできない
集団での関連は、個人の寿命の計算式ではありません。運動中に脈が上がることを、寿命を使うことと考える必要はありません。 [21] [23]
「心拍数が高い人は早死にする」という話と結びつけて語られるのが、本川達雄さんの『ゾウの時間 ネズミの時間』です。寿命の違う動物でも、一生の心拍数はおよそ同じという見方です。教材では約20億回という説明が紹介され、動物はそれぞれのペースで時間を生きていると考える、魅力的なたとえになっています。[20]
では、人間にも使い切ると終わる「持ち時間」があるのでしょうか。
数字は研究によって違う
哺乳類についてのある分析では、一生の心拍数は平均約7.3億回でした。別の文献では約8億回とも説明されています。動物間のばらつきや資料の違いがあり、すべての哺乳類がきっちり同じ数というわけではありません。「20億回」は正確な普遍法則ではなく、種をまたぐ大まかな関係を表すたとえとして読むべきです。[21][22]
仮に20億回を人間に当てはめると、毎分70回なら1年で約3,700万回、約54年で使い切る計算です。日本人の平均寿命はそれよりずっと長く、人間の寿命をこの計算で決めることはできません。
「残り回数」ではなく「メーター」
心拍数は代謝などの生理的な状態を映す目印として考えられます。心臓をゆっくり打たせるだけで寿命が延びるということではありません。[21]
人間では、46の研究、約125万人をまとめたメタ分析で、安静時心拍数が10回高いことと、全死亡の相対リスク9%増、心血管死亡の相対リスク8%増との関連が報告されました。80回を超える群では最も低い群と比べて全死亡の相対リスクが45%高いという結果もあります。これは集団での相対的な関連で、個人の死亡確率や寿命の計算には使えません。[23]
こうしたリスクの関連は日本の健診の基準を理解する背景にもなりますが、85回を超えたら直ちに危険という境界ではありません。心拍数には体力、ストレス、睡眠、病気などが関わり、関連があることと原因であることは違います。脈を下げるために薬を自己調整しないでください。[3][23]
心臓の拍動は、使えば減る「残り回数」ではなく、いまの体の状態を知らせる「メーター」と考えるほうが実際に近いのです。
第7章 脈が飛ぶ・乱れる 不整脈ってなに?
不整脈は、心臓の電気的なリズムや伝わり方の異常です。脈が飛ぶ、ばらばらになる、急に速くなる、遅くなるなどの変化があり、種類の確認には心電図が必要です。[2][5]
しくみを図で理解
拍の数と、拍の間隔を分けて見る
同じ数の拍でも、間隔は異なり得ます。時間目盛りのない概念図であり、心電図や特定の不整脈の波形ではありません。心拍数表示だけでは不整脈は診断できません。 [2]
春。残業が続き、コーヒーが1日5杯に増えた週の夜、ミサキさんは布団の中で「トン、トン、……ドクン」という感覚に気づきました。一瞬脈が止まったようで、その次の一拍が強く感じられます。
不整脈という言葉は、すべてが危険という意味ではありません。一方で、痛みや運動に応じた正常な心拍変化とは区別が必要です。感覚だけでは診断できないため、ここでは代表的な4つのタイプと、受診で確かめるポイントを紹介します。[2][5]
期外収縮:「脈が飛ぶ」の正体
洞結節以外から予定より早い拍動が起きることがあります。早い拍動が十分な脈として手首まで届かず、「飛んだ」と感じることがあります。[5]
心房性期外収縮は健康な人にも起こり、気づかないこともあります。コーヒーや紅茶、飲酒、一部のかぜ薬などが誘因になる人もいます。心室性期外収縮もよくみられ、年齢とともに増えます。心臓に基礎疾患がない場合は良性のことが多い一方、頻繁に起こる場合や心疾患がある場合は評価が必要です。[11][24]
ミサキさんはコーヒーを1日2杯に戻し、早く寝るようにすると、「ドクン」を感じなくなりました。ただし、これは架空の経過で、原因や不整脈の種類を確定するものではありません。胸痛を伴う動悸は狭心症や心筋梗塞などの可能性もあるため、直ちに119番に連絡してください。[5]
心房細動:脈が「バラバラ」になる
心房が細かく不規則に興奮し、脈の間隔がばらばらになる不整脈です。心房内でできた血栓が脳の血管を詰まらせると、脳梗塞の原因になります。[5]
2003年に健診を受けた40歳以上の約63万人のデータをもとに、2005年の日本の患者数は約70万人と推計されました。その後の啓発資料では100万人を超えるとみられると説明されています。これは過去の推計や資料で、2026年の実測値ではありません。高齢になるほど多くみられます。[26][27]
ミサキさんの82歳の祖母は、かかりつけ医に脈の乱れを指摘され、心電図で心房細動が見つかりました。本人に自覚症状はありませんでした。日本では3月9日が「脈の日」、3月9〜15日が「心房細動週間」とされ、心房細動についての啓発が行われています。[27]
発作性上室頻拍:突然始まり、突然止まる
規則的で非常に速い拍動が、スイッチが入ったように突然始まり、突然止まることがあります。資料では毎分160〜220回、数分から数時間続くことがあり、若い人にもよくみられると説明されています。ただし、その数字に当てはまるかどうかだけでは診断できません。[25]
動悸のほか、息苦しさ、胸痛、ふらつきが出ることもあり、治療法があります。多くは直ちに命に関わるものではありませんが、自分で安全な発作と決めつけないでください。初めての突然の頻拍や繰り返す発作は相談し、胸痛、強い息苦しさ、失神などを伴う場合は直ちに119番に連絡してください。[25]
徐脈性の不整脈:脈が遅すぎる
心拍を作る、または伝えるしくみの異常で脈が遅くなることがあります。迷走神経の強い作用などで遅くなる場合もありますが、運動習慣による無症状の徐脈とは評価が異なります。[2][5]
遅い脈とともに、ぼんやりする、息切れする、気が遠くなるなどの症状があれば医療機関での確認が必要です。失神、意識の異常、強い息苦しさがあれば直ちに119番に連絡してください。何回以下になるか、何秒止まるかを測って待つ必要はありません。[1][5]
オンライン測定でわかること・わからないこと
HeartScanのオンライン測定は、スマートフォンの加速度センサーで胸の微細な振動を捉えるSCGにより心拍数を推定します。心臓の電気活動を記録する心電図ではありません。表示値だけで心房細動などの不整脈を診断したり、正常な値だから不整脈はないと判断したりはできません。新しい脈の乱れや繰り返す乱れは、医療機関で心電図などによる確認が必要です。[5][28]
文章の中を、動きで見る
胸の微細な動きを、スマートフォンで捉える
模式図:動きは見やすく誇張しています。形・大きさ・変位量は実際の縮尺ではありません。
心臓の拍動に伴う機械的な振動
現在のステップ胸に置いたスマートフォンで動きを検出
動きの中から拍動のタイミングを推定
拍動の間隔から心拍数を推定
SCG(心振動図)はスマートフォンの動きセンサーを使います。カメラや指・手首では測りません。検出するのは機械的な振動で、心臓の電気活動ではありません。この図は実測ではなく、不整脈を診断するものではありません。
楽な姿勢で横になり、測定画面の案内に従います。
気になったときの表示値、症状、開始時刻や持続時間、測定条件をメモして医師に伝えましょう。不整脈は発作的で、診察のときには治まっていることもあります。胸痛、強い息苦しさ、失神などがあれば、再測定や記録より救急対応を優先してください。[1][5][28]
第8章 こんなときは医療機関へ
理由のない持続的な変化や脈の乱れは医療機関に相談しましょう。胸痛、強い息苦しさ、失神、意識の異常などは、脈の数値に関係なく直ちに119番です。[1][5]
しくみを図で理解
症状と経過から、次の行動へ
直ちに119番測定を続けて待たない
医療機関に相談数値・症状・いつからかを伝える
安静にして、同じ条件で測定オンライン測定は診断の代わりではない
症状が新たに出たり悪化したら、測定値にかかわらず再判断してください。 [1] [2]
心拍数の変化の多くは自然な反応ですが、専門家に調べてもらうべき変化もあります。「いつもの脈」は手がかりであって、安全を保証する検査ではありません。測定やアプリの確認のために救急対応を遅らせないでください。
まとめ 数字は「体からの手紙」
心拍数は残り寿命のカウンターでも、単独で病気を決める数字でもありません。いつもの値と比べ、理由、続き方、リズム、症状を一緒に見るための手がかりです。
しくみを図で理解
測る → 状況を考える → 症状を確認 → 行動する
- 測る
落ち着いて、時間・姿勢・方法をそろえる
- 状況を添える
睡眠、活動、発熱、薬などを記録
- 症状を確認
胸痛・息苦しさ・失神や、続く変化はないか
- 次の行動へ
救急症状は救急要請。続く変化は相談。普段の記録は比較に使う
数字は出発点。状況と症状をつなげて初めて、次の行動を考えられる。
秋。ミサキさんの朝の脈は58回前後で落ち着いています。1年前なら、プレゼン前の92回も、風邪の日の73回も、夜中の「ドクン」も不安の種だったかもしれません。いまは、それぞれに考えられる理由があり、数字だけでは判断できないことを知っています。そして、祖母の心房細動が脈の乱れから見つかったことも。
心拍数は、体がいまどんな状態にあるかを知らせる小さな手紙のようなものです。手紙の読み方を、3つにまとめます。
生まれる前から動き続けてきた2つのポンプは、いまも体の必要に合わせてリズムを調整しています。オンライン測定の値も、その時点の状態を考えるための手がかりです。気になる変化があれば記録して相談し、救急症状があれば測定を続けず助けを求めましょう。
よくある質問
安静時の心拍数が90台です。正常ですか?
安静時心拍数90台は、成人の一般的な目安60〜100回には入りますが、日本の人間ドックの仰向けで測る基準範囲45〜85回は超えます。目的と測定条件が異なる基準なので、これだけで病気とは決まりません。緊張などがなくなっても90台が続く、いつもより高い日が続く場合は相談してください。胸痛、強い息苦しさ、失神などがあれば、90台でも直ちに119番です。[1][2][3][10]
安静時の心拍数が50台でも大丈夫ですか?
安静時心拍数50台は、若い人や運動習慣のある人では正常なことがあり、日本の人間ドックの基準範囲にも入ります。ただし、薬の影響や心臓の異常でも低くなるため、低いほど健康とは限りません。新しい変化やだるさ、めまい、息切れがあれば相談し、失神や強い息苦しさ、胸痛があれば直ちに119番に連絡してください。[1][2][3][5]
心拍数をすぐに下げる方法はありますか?
運動直後や緊張による一時的な速い脈なら、座って休むと落ち着くことがあります。ゆっくり自然に呼吸することは気分を落ち着ける助けになりますが、不整脈の治療ではありません。突然とても速くなった脈や繰り返す発作は医療機関に相談し、胸痛、強い息苦しさ、失神などがあれば直ちに119番です。長期的には持久系運動やヨガで安静時心拍数が下がる傾向がありますが、個人差があります。[9][16][25]
女性のほうが安静時心拍数は高いのですか?
約9万人のウェアラブル端末データでは、各年代で女性の平均安静時心拍数が男性より高い傾向でした。ただし、性別による違いより個人差のほうが大きく、性別だけで自分の正常値は決まりません。同じ条件で測った自分の過去の値と、症状の有無を一緒に見ることが大切です。[4]
参考文献
- American Heart Association. All About Heart Rate (Pulse). 2024.
- MSD Manual Consumer Version. Overview of Abnormal Heart Rhythms. 2024.
- 日本人間ドック・予防医療学会. 判定区分表に関するQ&A【心臓】.
- Quer G, Gouda P, Galarnyk M, Topol EJ, Steinhubl SR. Inter- and intraindividual variability in daily resting heart rate and its associations with age, sex, sleep, BMI, and time of year. PLOS ONE. 2020. doi:10.1371/journal.pone.0227709.
- 日本心臓財団. 心拍数と心臓病(健康ハート叢書17). 監修:山科章. 2015.
- National Heart, Lung, and Blood Institute. How the Heart Beats. 2025.
- MSD Manual Consumer Version. Biology of the Heart. 2025.
- Klabunde RE. Regulation of Pacemaker Activity. Cardiovascular Physiology Concepts.
- Cleveland Clinic. Sinus Arrhythmia. 2022.
- 心リハ♡NOW. Vol.16 たかが脈拍 されど脈拍?!
- MSD Manual Consumer Version. Ventricular Premature Beats. 2024.
- Karjalainen J, Viitasalo M. Fever and cardiac rhythm. Arch Intern Med. 1986;146(6):1169-71.
- Radin JM, Wineinger NE, Topol EJ, Steinhubl SR. Harnessing wearable device data to improve state-level real-time surveillance of influenza-like illness in the USA: a population-based study. Lancet Digit Health. 2020. doi:10.1016/S2589-7500(19)30222-5.
- Mishra T, Wang M, Metwally AA, et al. Pre-symptomatic detection of COVID-19 from smartwatch data. Nat Biomed Eng. 2020. doi:10.1038/s41551-020-00640-6.
- Radin JM, Quer G, Ramos E, et al. Assessment of prolonged physiological and behavioral changes associated with COVID-19 infection. JAMA Netw Open. 2021;4(7):e2115959.
- Reimers AK, Knapp G, Reimers CD. Effects of exercise on the resting heart rate: a systematic review and meta-analysis of interventional studies. J Clin Med. 2018;7(12):503.
- D'Souza A, Bucchi A, Johnsen AB, et al. Exercise training reduces resting heart rate via downregulation of the funny channel HCN4. Nat Commun. 2014;5. doi:10.1038/ncomms4775.
- Drezner JA, Sharma S, Baggish A, et al. International criteria for electrocardiographic interpretation in athletes: consensus statement. Br J Sports Med. 2017;51:704-31.
- Andersen K, Farahmand B, Ahlbom A, et al. Risk of arrhythmias in 52 755 long-distance cross-country skiers: a cohort study. Eur Heart J. 2013. doi:10.1093/eurheartj/eht188.
- 本川達雄. ゾウの時間 ネズミの時間. 中公新書. 同書を引用した教材.
- Levine HJ. Rest heart rate and life expectancy. J Am Coll Cardiol. 1997;30(4):1104-6.
- 更科功. 現代ビジネス. 2019.
- Zhang D, Shen X, Qi X. Resting heart rate and all-cause and cardiovascular mortality in the general population: a meta-analysis. CMAJ. 2016;188(3):E53-63.
- MSD Manual Consumer Version. Atrial Premature Beats. 2024.
- MSD Manual Consumer Version. Paroxysmal Supraventricular Tachycardia (SVT, PSVT). 2024.
- 塗木徳人(鹿児島医療センター). 不整脈って? 心臓・血管病市民公開講座資料. 2012. 引用元:Inoue H, et al. Int J Cardiol. 2009;137:102-7.
- 新潟県. 心房細動週間.
- 日本脳卒中協会ほか. 心房細動による脳卒中を予防するプロジェクト(TASK-AF)プレスリリース. 2014.
この記事について
HeartScan編集部による、資料にもとづくAI支援の教育コンテンツです。医療専門家による医学的な監修・査読は受けていません。登場するミサキさんと家族は架空の人物で、経過は説明のための例です。
一般的な教育情報であり、医師の診断や治療に代わるものではありません。個人の基準値やオンライン測定・アプリの表示だけで病気の診断や除外はできません。オンライン測定は脈拍数の推定であり、心電図ではありません。気になる変化は医療機関に相談してください。